古都・鎌倉で、和やかなお茶会が開かれた。亭主を務めたのは、ウクライナから日本に避難してきた女性。息子と共に日本に訪れて間もなく4カ月になる。母国で始めた茶道を心の支えに、徐々に日本での生活の基盤を整えつつある。
神奈川県鎌倉市内にある宿泊施設で7月3日にあったお茶会。広間にしつらえられた釜を前に、ビクトリアさん(47)が背筋を伸ばし、流れるような手つきでお茶を点(た)てた。息子のアルトゥーラさん(13)も、袴(はかま)を身に着けて参加者にお茶や茶菓子を運ぶのを手伝った。
午前と午後の各約1時間半に計約60人が参加。日本にいるウクライナ人のお茶仲間も手伝いに訪れた。「温かい気持ちで支援していただき、本当に感謝します」とお礼を述べたビクトリアさん。文化の違いなどまだ慣れない部分もあるが「ウクライナから来たと分かると、本当に温かく歓迎してくれる」と語った。
お茶会は、市内で茶道教室を主宰する西川勝さん(78)が提案し実現した。ビクトリアさんは西川さんのお茶の「孫弟子」に当たる。西川さんは旧ソ連時代の1991年からロシアで茶道を教えていた。その時のウクライナ人の弟子オリガ・シルニツカさん(47)=広島在住=が後にキーウで開いた茶道教室に、ビクトリアさんが通っていた。
ビクトリアさん母子の受け入れに奔走し、4月5日に母子が政府専用機で羽田に到着した際、出迎えたのも西川さんだった。4月中には鎌倉市内のアパートに住まいが確保でき、2人の日本での生活が始まった。当初はオリガさんがしばらく鎌倉に滞在。買い物やゴミの分別の仕方、日本語の簡単なあいさつなどを教え、様々な手続きにも付き添ってサポートした。
日本での生活の支えになっているのが、習い始めて9年ほどになる茶道だ。お茶の哲学的な面が気に入って始めたというビクトリアさん。ウクライナでの茶道仲間の雰囲気もとてもよかったという。
今回の来日の前にも、日本に来て西川さんのお茶のけいこに参加したことがある。ほんの少しだが覚えている日本語もあり、来たばかりの頃にも「私は日本のお茶がとっても好きです」と日本語で話しながら笑顔を見せていた。
今も毎週のように西川さんの自宅に訪れ、お茶のけいこに励んでいる。「基礎がきちんとできている。オリガさんがしっかり教えていたのが分かります」と西川さんは目を細める。「茶道には国境がない」が西川さんの持論だ。
ビクトリアさんは鎌倉市内の旅館で仕事が見つかった。息子のアルトゥーラさんも6月から市立中学校に通う。日本語も勉強しているので、先生の言うことも少しは理解できるという。日本語を習うときに役立てているのが漫画だ。「ジョジョの奇妙な冒険」や「新世紀エヴァンゲリオン」が好きで「日本語の意味を覚えるのに漫画は最適」とアルトゥーラさん。
ウクライナにはビクトリアさんの夫や両親、親戚が残っている。今のところ連絡は取れているが、「危険なまちに住んでいるので、とても心配」とビクトリアさんは表情を曇らせた。
今後の目標は「まずは日本語をしっかり覚えて、お茶を続けていきたい」。ビクトリアさんにとって、茶道はますます欠かせないものとなっている。(芳垣文子)
からの記事と詳細 ( 鎌倉で感謝のお茶会 ウクライナから避難、母国で習い心の支えに - 朝日新聞デジタル )
https://ift.tt/e6Efm7G