全国きっての高級茶葉「八女伝統本玉露」の栽培方法とは――(『八女茶――発祥600年』より)
高品質な玉露の生産地である福岡県八女。そこで作られる八女茶の栽培方法は室町時代から受け継がれ、600年を迎えました。全国きっての高級茶葉「八女伝統本玉露」の栽培方法とは――
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1年を通じて茶畑と向き合う
春になると、茶樹は長い「休眠」から覚めて、新芽の萌芽が始まります。
お茶を摘む時期が早い早生種(わせしゅ)は3月下旬頃、時期が遅い晩生種(ばんせいしゅ)は4月初旬から萌芽が始まり、およそ2週間をかけて新葉を開いていきます。
茶摘みの光景を歌った「夏も近づく八十八夜」というのは、立春から数えて88日目の5月初旬にあたり、新葉の摘採はまさに最盛期を迎えています。
そして、7月にかけて茶樹は成長を続け、一番茶摘採から約1ヵ月半で二番茶の摘採となります。
摘み採りの時期には、生産農家は摘んだ生葉(なまは)を荒茶(葉、茎、粉が混じったお茶の原料となる精製途中のもの)にする一次加工までを担い、茶畑での収穫、工場での加工と、最盛期は文字どおりフル稼働による生産体制となります。
お茶づくりというと、こうした収穫シーズンは想像しやすいでしょうが、実際には、このほかの時期にもたくさんの仕事があるのです。
お茶の葉一枚一枚に思いを込めて
茶樹の手入れ、病害虫の防除など、それぞれ時季に応じた仕事が控えており、また、一番茶、二番茶の摘み採りが終われば、次の春の新芽のために土壌づくりを行わなければなりません。「よい芽が出るように」、何度も肥料をまいて耕したり、消毒をしたり、畝の深耕をしたりして、茶畑の手入れには余念がありません。
生産者は1年を通じ、日々茶畑と向き合っているのです。
そして、その苦労やこだわりは、作るお茶や生産者によってもさまざま。毎年異なる気象条件、気象災害との闘いでもあります。
八女の茶園では、試行錯誤を重ねながら、お茶の葉一枚一枚に思いを込めたお茶づくりが行われているのです。
ここからは、茶の生産において重要な点を紹介します。
『八女茶――発祥600年』(監修:福岡の八女茶 発祥600年祭実行委員会/中央公論新社)
覆い
茶樹に覆いをかけて「被覆栽培」するお茶には、玉露やてん茶、かぶせ茶があります。玉露は高級茶、てん茶は抹茶の原料となるお茶で、いずれも鮮やかな緑色と濃厚な滋味、香りが命の上級茶です。
被覆栽培では茶園全体に棚を作って覆いをし、遮光した中で葉を開かせます。覆いに使うのは、稲わらで編んだ「こも」と呼ばれるものや、化学繊維のネット。被覆を始めてから20日後くらいが、お茶の葉を摘むのにちょうどよい時期となります。
そして、最高峰の八女伝統本玉露については、同じ被覆栽培であっても「被覆素材は天然素材のみ」「遮光率は95パーセント以上」「被覆期間は16日以上」などの生産条件が定められており、玉露と区別して付加価値を高めています。
被覆栽培のお茶は露地栽培のものと比べてうま味や甘味が強く、苦味や渋味は軽くなります。また、わずかな光を有効活用するため、クロロフィルが増えて葉の緑色が濃くなります。これらは、被覆栽培による賜物なのです。
こもで被覆した八女伝統本玉露の茶畑(『八女茶――発祥600年』より)
摘採
お茶の葉を摘み採ることを「摘採」といいます。主に次のような方法で行います。
【手摘み】 玉露、てん茶のような自然仕立ての茶園や、品評会に出品する高級茶を作るときに行う。生葉の品質は手摘みが最高だが、最も手間がかかる。
伝統本玉露の手摘み。「一芯二葉」摘みは手間のかかる作業(『八女茶――発祥600年』より)
【2人用可搬型摘採機】傾斜地や小規模茶園で普及している摘採機。茶畝を挟んで2人で機械を持ち、畝の間を歩きながら摘採する。
【乗用型摘採機】乗用式の摘採機で高価ながら、労働負担が軽く、1人で10アールの茶園を60分程度で摘み終える高能率の茶摘み。
八女伝統本玉露の場合は、「摘採は手摘みであること」という生産条件があり、なかでも品評会に出品するものについては、「一芯二葉」摘みが行われます。茶の葉が4~5枚開いた頃に、最も養分を含む上部の2枚だけを手で摘む極上の摘み方です。
柔らかい葉だけを摘むのはとても手間のかかる作業で、熟練者でも1時間に両手のひらほどしか摘めないという、とても希少なものです。
整枝・剪定
茶樹の表面を刈る作業には、大きく2つあります。一つは、茶の株面をきれいに整える「整枝(せいし)」。もう一つは「剪枝(せんし)」といって、茶樹の高さを低く切り下げる作業です。
整枝は、新芽を摘み採るときに古い葉や茎を一緒に刈ってしまわないよう株面をそろえて、新芽が一斉に伸びるように整える作業で、これには、茶樹の生育が止まる10月頃に行う秋整枝と、茶樹の活動が始まる前の2月~3月に行う春整枝があります。
何年も収穫を繰り返した茶樹は枝の数は増えますが、しだいに新芽や枝はやせて、お茶の品質も低下します。そこで茶樹が低くなるよう剪定し、枝数を減らして勢いのいい芽が出るようにします。
茶樹の形には、「弧状型」「水平型」などがありますが、玉露やてん茶の茶園で見られる枝を自然に伸ばした「自然仕立て」もまた特徴的です。一口に剪定といっても、作るお茶、茶摘みの方法に合わせて、さまざまな工夫がされています。
※本稿は、『八女茶――発祥600年』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
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