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Sunday, February 23, 2020

ブラジルのコーヒー農園を購入して人生をリセットした、レニー・クラヴィッツの暮らし。 - VOGUE JAPAN

Photo: Simon Upton Styling: Kristen Mattila

レニー・クラヴィッツは誘惑についてちょっと詳しい。グラミー賞受賞歴があるミュージシャンでデザイナーでもある彼は、さまざまなジャンル、時代、スタイル、影響が融け合う夢のように美しく特異なヴィジョンを創りあげてきた。現在55歳のクラヴィッツはつねに期待を超える芸術的表現の新境地を切り拓きながら、この地球上でもっともクールな存在であり続けている。クラヴィッツ・デザイン設立から16年間、彼はマイアミ、ラスベガス、トロントにあるホテルのパブリックスペースやスイートルームを手がけ、家具からドア付属品、壁紙、セラミックタイルまでいろいろな商品を開発してきたうえ、ライカのカメラやロレックスの腕時計までデザインしたことがある。そして目下は、ニューヨークのノリータ地区にある新しいコンドミニアム「75ケンメア」のインテリアを監修している。さらに、現在進行形の彼のとびきり面白い個人プロジェクトが、リオデジャネイロ近郊にある18世紀ブラジル建築のコーヒープランテーションの再創造なのだ。

ゲストハウスの大広間には、クラヴィッツ・デザインによるソファと、ジョルジ・ザウズピンによるブラジル産ローズウッドのカクテルテーブルがある。Photo: Simon Upton

クラヴィッツのブラジル田園物語は、ツアー中だったおよそ10年前に始まった。「ぼくはブラジル中を回っていて、どんどん人や文化や音楽や土地に魅かれていた。ブラジルにはすごくパワフルで豪快なところがあるからね」彼は当時をそう回想する。そのツアーが終わり、バンドとともにマイアミへ出発するまであと24時間もないというときになって、クラヴィッツは友人から田園地帯にある不動産物件を見にこないかと電話をもらったという。「みんな、もうあとは家へ帰るばかりだったけれど、心のなかでこういう声がしたんだ。『冒険しよう』とね。だからみんなで夜にそこに到着し、翌朝、目覚めてみたらそこは想像しうるかぎり最高に自然豊かで美しい風景が広がっていたんだよ。そこは山々に囲まれた谷あいの地にあり、滝があって、牛や馬や猿がいて、果樹園や畑などありとあらゆる自然が揃っていた」彼はそう続ける。

自然に魅せられて、滞在することを決意。

敷地内でくつろぐレニー・クラヴィッツ。Photo: Simon Upton Styling: Kristen Mattila

そんなエデンの園への小旅行から新たな生活が始まった。1日のはずが1週間になり、1週間が1カ月になった。「結局、ぼくはそこに半年間も滞在したんだ。あんなの滅多にあることじゃない。ぼくはそれまでの生活からふとドロップアウトし、カウボーイたちから馬の乗り方を教わったり、農業を教わったりしながら、自然と共生するようになった」彼はそう言う。「あれほど心静かで満ち足りた気分になったことも、あれほど神の存在が身近に感じられたこともそれまでなかった。それは夢のようにすばらしい日々だったし、ぼくはこう思った。もう都会の喧騒はいらない。自分は農夫になろうとね」

ギャラリースペースには、クラヴィッツ・デザインによるウィングバックチェア2脚があり、壁(左側)にはクラヴィッツの母親で女優のロクシー・ローカーの写真が。Photo: Simon Upton

しかしながら現実はそうもいかず、クラヴィッツはやがてツアーと音楽づくりという本来の生活に戻っていった。しかしブラジルへの想いは断ち切れず、2年後、彼は再びその誘惑の呼び声を聞く。このとき、クラヴィッツはかつて心から魅了されたおよそ1000エーカーの牧場を購入すると、自然とアートが完璧な調和のうちに共存し、家族、友人、協力者たちが滞在できる隠れ家をつくりながら、牧場としてのあれこれを維持していこうと決心したのである。クラヴィッツはそこを「テクノロジーから離れ、生活をリセットし、静かに自分自身の心の声に耳を傾けるための場所」と呼ぶ。

プールの周りには、木製の椅子やクラヴィッツ・デザインによる長椅子が置かれている。Photo: Simon Upton

その広大な牧場には、18世紀建築のポルトガル植民地風母屋と離れからなる、紛れもないひとつの村が含まれており、クラヴィッツは複数ある離れの一部をゲストハウス、ジム、プールハウス、レコーディングスタジオに改築した。彼は自らのリノベーションを単に、現在ある建物を明るくきれいにすることから始めたという。「内装はとても伝統的な植民地スタイルで、揃いの壁紙と椅子、重厚感のある木製家具多数という感じだった。ぼくが最初に思ったのは、とにかくすべてをきれいにしよう、壁紙を剥がし、果てしなくある衣装ダンスを撤去し、水回りと配線をアップグレードするということだった」彼はそう説明する。

ゲストハウスのテラスには屋根が作られており、椅子はすべてクラヴィッツ・デザインによるものだ。Photo: Simon Upton

それから数年間、クラヴィッツはリノベーションを監督するため頻繁にその牧場を訪れ、ツアーで忙しいときには現場の業者の人たちとフェイスタイムでやりとりした。彼はまた、新しくきれいになった部屋に配置するために家具やアートを送り始めた。「ぼくはとにかく自分の好きなものたちを詰め込んだコンテナを送りつけたんだ。そのなかには部屋にぴったりとはまったものもあれば、そうでないものもあった。そのプロセスはまるで作曲するときのように、即興的だったよ。自分の感じるように演奏しなくてはならないんだけど、ときには自分が演奏しなかったものが重要なこともある」彼はそう断言する。

レニーと友人たちによるドローイングが壁一面に。1970年代のレオン・ローゼンのスウィベルチェア。20世紀初頭のルイ・マジョレルのアームチェアと長椅子がある。Photo: Simon Upton

クラシックなブラジル産タイルやそれ以外の地元の装飾、そしてオスカー・ニーマイヤー、セルジオ・ロドリゲス、ジョルジ・ザウズピンといったブラジルの巨匠たちの家具はこの地に対するオマージュである。いかにもクラヴィッツらしいパッションあふれるスタイルで、そこに追加されたのはウォーレン・プラットナーやエーロ・サーリネンのものなどミッドセンチュリー様式の調度品の数々、彼自身のデザイン会社の特注品、そしてパコ・ラバンヌのヴィンテージの壁掛けや河合楽器のクリアアクリルグランドピアノといった華やかなアクセントだった。「このあたりのペースはゆったりとしている。だから、ぼくはあらゆるものとともに暮らし、それに対して自分がどう感じるかを確認することができた。インテリアに関してはフリースタイルやトライアル&エラーがあったんだ」クラヴィッツはそう語る。

マスターベッドルームには、ヤシの木にインスパイアされたクリス・ワイリックによるミューラルが壁に。ザニーニ・デ・ザニーネの木製の椅子と、ウィリー・リッツォのカクテルテーブルがある。Photo: Simon Upton

クラヴィッツはまた、アーティストの友人たちを招き、家づくりに参加してもらったという。例えば、壁を彩っているいくつかの壁画がそうである。ちなみに、ミュージシャンである彼自身も同じようなことをやっている。「ある晩、ある壁を見ていたら、これにはなにかが必要だと思ったんだ。それで巨大な三角形を描くことにした。ぼくは三角形が好きなんだ!」そう彼は言う。

リビングルームにはトッド・メリル・スタジオのレッドウッドテーブルの上に、アンティークのピューターでできた燭台が飾られている。ソファはリーン・ロゼのミッシェル・デュカロワによるものだ。Photo: Simon Upton

彼のその努力の結果は、泥臭い有機的な雰囲気と「クレイジーセクシークール」を楽しく足して2で割ったようなバイブスを生み出している。しかしクラヴィッツにとって、現在も続いているリノベーションは最新の美意識というよりはこの人里離れたオアシスのスピリチュアルなエネルギーの保存を目的としたものなのだ。「この牧場、この土地には、それ自体に強い生命力がある。デザインの力でもとても太刀打ちできないような生命力がね」

敷地にはヤシの木がたくさんあり、レニーが飼っているマンガラルガ・マルカドールと呼ばれるブラジルの馬とラブラドール犬のために日陰を作ってくれている。Photo: Simon Upton

Text: Mayer Rus

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February 23, 2020 at 05:00PM
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