一昔前に比べて、お茶を淹れる機会というのは格段に減少したように思う。筆者の修行時代には手伝いの一つとしてあったお茶汲みも今やペットボトルの勢いに取って代わられ、見掛けることは少ない。
お茶を淹れることは業務の一つから、ある種の贅沢な時間、嗜好品としてのお茶を楽しむ時間へと回帰したのだろうか。いわゆるティータイム、お菓子などと合わせてその日のお茶を楽しむのは非常に優雅な時間である。アフタヌーン・ティーなど英国文化も日本に取り入れられ、今や堂々たる市民権を得ていると言える。
さて、日本の紅茶文化が発達した地と言えば、神戸と横浜、両貿易港が頭に浮かぶ方も多いだろう。 今回紹介する「セイロン亭の謎」は、神戸の異人館などがある北野に洋館を構え、代々紅茶の輸入を生業とし、ティーサロンのチェーンである「セイロン亭」も経営する高見沢家で起こった事件を描く推理小説である。
今ではあまり聞くことも少ない言葉になっているが、「セイロン」は紅茶の名産地、スリランカの旧国名であり今でもセイロンティーなどにその名を残している。
主人公の矢部も静岡にある日本茶の老舗の息子であるため、全編に渡り多種多様な茶を淹れたり飲んだりというシーンが展開される。
本筋の謎も気にかかるが、様々な品種が紹介されるお茶の方も色々と味わってみたくなる一冊である。
お茶をゆっくりと淹れ、香りを楽しみながら読む本としては最適ではないだろうか。(将棋棋士 糸谷哲郎八段)
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