日本には、その土地の気候風土に根差した個性豊かな食材がたくさんあり、その裏には、必ずそれに携わった作り手がいます。私は、農林水産省で働きつつ、休日はそのおいしさの源である産地へ出向き、作り手の声に耳を傾けた上で、その食材を料理し、伝えることをライフワークとしています。この連載では、まだまだ知られていないおいしい食材を一つひとつひもときながら、レシピと共にお伝えします。
今回のテーマは「石鎚黒茶」。
緑茶や烏龍茶ならともかく「石鎚黒茶」と聞いてもピンとこない人も多いでしょう。それもそのはず。このお茶は愛媛県にある石鎚山の麓、西条市小松町の石鎚地区に古くから伝わる「幻のお茶」で、かつては県内でも知られていない存在でした。
石鎚黒茶の特徴は「後発酵茶」という点。そもそも発酵茶とはどういうお茶でしょうか。おなじみの緑茶は収穫した茶葉を蒸すことで酸化を抑え、鮮やかな緑色を残すことから「不発酵茶」と呼ばれますが、例えば紅茶は収穫後、熱風にさらすことで茶葉を酸化させることから「発酵茶」というカテゴリーに分類されます。ただ、発酵という現象は厳密には微生物が関わる反応を指します。紅茶の変化に微生物は関わっていないので、発酵という呼び方はあくまで慣習上のもの。
日本には4種類の後発酵茶があり、茶葉を加熱した後、微生物の力を使って発酵させる富山県のバタバタ茶。乳酸菌で発酵させる徳島県の阿波晩茶。そして、微生物と乳酸菌の両方で発酵させる高知県の碁石茶と愛媛県の石鎚黒茶があるのです。その中でも、碁石茶と石鎚黒茶のように微生物で発酵させた後、再び発酵させるとい2段発酵茶は、現在のところ世界でこの2例しか確認されていないともいわれています。
消える寸前だった幻のお茶「石鎚黒茶」
石鎚黒茶の存在が全国に知れ渡ったのは 2023年3月22日。石鎚黒茶の製造技術が国の重要無形民俗文化財に指定されたことがテレビや新聞各紙などで報じられました。しかし、この石鎚黒茶。じつは消える寸前だったのです。江戸時代には、石鎚登山客への接待、小松藩の換金作物、石鎚地域の生活で使われるお茶として生産されていた石鎚黒茶ですが、過疎化により生産者が減少。ついに1996年には、最後の1軒のみが自家用としてつくる、という状況になります。「幻のお茶」は本当に幻になるところでした。
そこで立ち上がったのが女性メンバーによる生活研究グループ「さつき会」です。現代表の戸田久美さんからお話を伺いました。
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