毎朝、心を込めてお茶をいれることから1日を始めてみませんか(写真:my room / PIXTA)
何かと忙しい年末年始。気ぜわしい日々に心が疲れてきたならば、朝10分早起きし、ゆっくりお茶をいれてみませんか。
僧侶である枡野俊明氏の著書『悩みを手放す21の方法』から一部を抜粋・編集し、日々の生活に取り入れたい「お茶」の時間と効果について、禅の教えをふまえてご紹介します。
お茶を飲むことも禅の修行のひとつ
日本にお茶が伝わったのは奈良時代のこと。当時のお茶は「団茶(だんちゃ)」と呼ばれる塊状のお茶で、嗜好品というよりは薬の一種だったようです。
現在のようなお茶が伝わったのは鎌倉時代初期のこと。臨済宗の栄西(えいさい)禅師が中国から抹茶を持ち帰り、禅宗のお寺を中心に少しずつ広まっていったとされます。
現在でも禅寺には「行茶」という言葉があります。お茶を飲むこともまた、禅の修行のひとつなのです。
【キーワード】
行茶(ぎょうちゃ)
禅ではお茶を飲むことも修行のひとつなので「行茶」という言葉を使う。同様にお粥を食べることは「行粥」、鉢を並べて食事するのは「行鉢」と呼ばれる。生活すべてが修行という意味が込められている。
私自身にとっても、毎朝お茶をいれることは大切な作務のひとつです。敷地内の井戸から朝一番で水をくみあげ、お湯を沸かして仏様の数だけお茶をいれます。
そしてご本尊様をはじめ、すべての仏様一体ずつにお参りしながらお茶を差し上げるのです。もっとも香りの高い一番茶を、仏様に楽しんでいただくことが私の大切な朝のお勤めですから、心を込めてお茶をいれています。
安土桃山時代の茶人・千利休は「茶の湯とは、ただ湯を沸かし、茶をたてて飲むばかりなるものとこそ知れ」と言いました。
つまり、茶の湯はただひたすらに湯を沸かし、ただひたすらにお茶をたて、ただひたすらに飲む、それだけなのだといっているのです。これはお茶にかかわるすべての工程を、できうる限り丁寧におこないなさいということだと私は思っています。
ゆっくり火を入れたお湯は甘くまろやか
まず大切にしたいのは、お湯の温度です。お茶はその種類によって、茶葉のうまみがほどよく溶けだす適温があります。煎茶は70~80度、玉露は50~60度ですから、いったん沸かしたお湯が冷めるまで待たなくてはいけません。
一方、ほうじ茶や玄米茶は沸騰したお湯でいれると香りが引き立ちます。急須には適量の茶葉を入れ、適温のお湯を注ぎます。ほうじ茶や玄米茶は30秒ほどで飲み頃になりますが、煎茶は1~2分、玉露は2~3分待たなくてはいけません。
急須は静かに持ち上げて、すべての茶わんに少しずつお茶を注ぎます。5つの茶わんがあれば、急須のお茶は10分の1ずつ注いでいくのです。5つ目の茶わんにお茶を注いだら、今来た道を戻るように残りを注ぎます。
これですべての茶わんのお茶が同じ濃さになるというわけです。最後に数滴落ちてくるお茶は、濃くておいしいところ。これも5つの茶わんに均等に注ぎます。急須を振ってはいけません、苦味が出てしまいます。
お茶を注ぐときには、急須のふたを指で押さえましょう。両手で急須を扱うことによって丁寧さが増し、ふたがはずれて落ちる心配もありません。親指、人さし指、中指の3本指で押さえると動作が美しく見えます。
これだけでも十分おいしいお茶が完成するのですが、できればお湯の沸かし方にも気をつけたいものです。理想は薪の火に鉄瓶をかけて沸かしたお湯です。まろやかで甘味のあるすばらしいお茶がいれられるでしょう。
薪が無理なら炭で沸かしたいところですが、現実にはどちらも難しいでしょう。ガスで沸かしてもいいのですが、できれば鉄瓶を使ってほしいと思います。ガスやIHコンロで沸かしたお湯でも、やさしく丸みのある味になります。
「マグカップにお水を入れて電子レンジでチン、そこにティーバッグを入れています」という人もいるかもしれませんが、残念ながらもっともおいしくないお茶のいれ方です。電子レンジのお湯は、舌を刺すような、とがった熱を感じます。
体調の変化にも気づけるように
確かに朝は忙しいものです。だからこそ、気持ちを落ち着かせる時間が必要なのです。いつもより10分だけ早く起きてお茶をいれてみませんか?
丁寧にいれたお茶は「ああ、おいしい」としみじみ感じさせてくれますし、心の奥底から「今日も一生懸命に生きていこう」という気持ちが生まれてくると思います。
そして毎朝丁寧にいれたお茶を飲み続けることで、「今日はあまりおいしく感じない。疲れがたまっているのかもしれない」など、体調の変化に気づくことができるようになります。
朝の一杯に使う湯飲み茶わんは、奮発して高級なものを使いましょう。自然と扱いが丁寧になり、シンクに置きっぱなしにすることもできなくなります。
鉄瓶、急須、そして湯飲みを洗ってふきあげ、元の場所に戻すとき、背すじはシャンと伸びて「今日も一日、丁寧に生きていこう」と思えることでしょう。
お粥で体と味覚をリセット
一禅チャレンジ「お粥で体と味覚をリセット」
丁寧にお茶をいれたら、朝食も心を込めてしつらえましょう。
作るのは1品で十分。それはお粥です。
飽食の時代だからこそ、週1~2回は朝食にお粥を取り入れて、胃や腸、そして舌にかかる負担を取り除いてください。
作り方は簡単です。お米1に対して水3~4を入れて土鍋でゆっくり炊きます。炊飯器でもいいでしょう。
修行僧の朝食は白粥とごま塩、そして少量のお漬物だけです。非常に粗食なのですが、多くの禅僧は「朝食のお粥はおいしかった」と口をそろえて言います。
その味はもちろんですが、お米から炊いた粥、ごま、そして漆の器が奏でる香りのすばらしさからきているのです。
ぜひとも漆の器で食べてみてください。おいしさが違います。
(枡野 俊明 : 「禅の庭」庭園デザイナー、僧侶)
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