夏になると冷たい飲みものが欲しくなりますよね。ここ数年「水出し緑茶」のニーズが高まっており、ボトル容器で作る人が増えているようです。お湯でなく水で淹れた緑茶は甘みと爽やかさがあって、まさに夏にぴったりの味わいです。
水出し緑茶はそのままでもおいしいですが、アレンジ次第でもっと幅広い楽しみ方ができるんです。教えてくれたのは、鹿児島県霧島市でお茶を中心とした土産物店「きりん商店」を営む杉川明寛さん。
お茶の使い方を常に楽しみながら探求・研究していて、来店したお客さんにさまざまな飲み方を提案しています。
ちなみに、鹿児島は全国でも有数のお茶の産出地。昔から鹿児島では“茶いっぺ”といって、来客があれば「急がず慌てずお茶でも一杯飲んでいってください」とお茶を出してもてなす文化があります。
▲杉川明寛さん。お客さんが来店するたびに「お茶をどうぞ」と振舞います
「お茶は自由に楽しむもの」と話す杉川さんに、水出し緑茶の淹れ方からアレンジ方法など、毎日の生活で緑茶を楽しむヒントを教えてもらいました。
▲瓦屋根の重厚な佇まいが印象的なきりん商店
▲きりん商店の店名の由来は「きりしまのよかもん」から。店内は、お茶を中心に手作りのみそだれやめんつゆ、地元作家の陶器などさまざまな“よかもん”(鹿児島弁で「いいもの」の意味)が並びます
▲お茶をスパイスやミルク、炭酸などと組み合わせた、気になるドリンクがたくさん
水出し緑茶の良さと淹れ方のポイント
──緑茶っていろんな種類がありますよね。
杉川さん:煎茶や玉露、番茶、茎茶、抹茶、ほうじ茶などいろいろありますよね。一般的には緑茶=煎茶のイメージが強いのではないでしょうか。ペットボトルの緑茶にもよく使われており、多くの人にとって一番身近なのが煎茶です。
今回の水出し緑茶も、この煎茶の茶葉を使います。
▲細長い棒状の茶葉が多いのが、いい煎茶の証。茶商の人は色、香り、形、つやで見分けているのだとか
──水出し緑茶の良さってどんなところにありますか?
杉川さん:いろいろありますが、大きく分けて4つですね。
- 3分くらいで淹れられるので手軽
- お湯で淹れる煎茶と比べてカフェインが少ない
- 水で出すので酸化しにくく、時間が経っても味や色が変わりにくい
- 茶葉の甘みが最大限に引き立つ
ただ、気を付けなければいけないこともあります。お茶は鉄分の吸収を少し阻害する働きがあるので、貧血気味の方は注意が必要です。
また、利尿作用もあるので飲みすぎると体内が水分不足になって脱水症状を引き起こすこともあります。だから飲み過ぎに注意してください。なんでもほどほどがいいですよ。僕自身、夏の水分補給には水や清涼飲料水なども飲むようにしています。
──緑茶=ヘルシーなイメージがありましたが、飲み過ぎは良くないのですね。「なんでもほどほど」、覚えておきます。使う煎茶の種類や淹れ方は、どのように考えればいいのでしょうか?
杉川さん:緑茶の味を決めるポイントは3つあります。「水の温度」「抽出時間」「茶葉の量」です。
▲図にするとこうなります(画像提供:きりん商店)
杉川さん:低い温度で淹れたお茶は甘みが、高い温度で淹れると苦みや渋みがでます。だから水出し緑茶は温かいお茶と比べて、茶葉の甘みが感じられる味わいです。抽出時間は短いとさっぱり&シンプルで、時間をかければかけるほどいろんな味の成分がよく出るため、複雑でしっかりした味わいになります。
──茶葉の種類としては「深蒸し」や「浅蒸し」がありますよね。コーヒーでも深煎り、浅煎りとありますが、煎茶も蒸し方で味わいが変わるのですね。
杉川さん:煎茶作りでは茶葉を蒸す工程があって、蒸し時間が長いものが「深蒸し茶」、短いものが「浅蒸し茶」です。深蒸し茶は独特のうま味や甘みがあっておいしいですが、茶葉本来の香りはあまり感じられません。
逆に、浅蒸し茶は茶葉本来の味や香りが魅力です。どちらがいいかは好みですね。
▲霧島茶の茶葉
杉川さん:うちで扱っている煎茶は、深蒸し茶の中では比較的浅めに蒸してあるので、両方の良さが出ていていい水出し緑茶ができます。
でもまずはあまり難しく考えず、家にある煎茶やスーパーで手軽に買える煎茶で試してみればいいと思います。やってみて慣れてきたら工夫してみればいいかと。
──ありがとうございます。では早速お願いします!
水出し緑茶の淹れ方
【材料】
- 茶葉 5g
- 水 50cc
- 氷 適量(2、3個)
※茶葉の量は、抽出時間や水の量、味の好みで調整してください。
1. 急須に茶葉と氷を入れます。茶葉5gは、計量スプーンの大さじ1弱くらいです(厳密にいうと茶葉によって多少の差があります)。
2. 水を注いだら、蓋をして3分間待ちます。
杉川さん:お湯で煎茶を淹れる時は蓋をすると香りが立つのですが、水出しはあまり関係がありません。とはいえ、衛生面を考えると蓋をしておいた方がいいですね。
3. グラスにも氷(分量外)を入れて、最後の一滴まで落とすように注ぎます。
杉川さん:抽出後半になってくると、味が濃厚に出ていてうま味がぎゅっと詰まっている感じがします。水分を完全に切るように、注ぎ切りましょう。
4. 完成。飲み口がさっぱりしていてほんのり甘く、後から緑茶らしいうま味と香りが追いかけてきます。
杉川さん:煎茶の魅力は何度も楽しめること。水と氷を足して三煎目くらいまで楽しめます。一煎目はさっぱりした味わいですが、二煎目は茶葉が開いてもう少し濃くなります。
三煎目まで水出しした後も、お湯で淹れるとまた味が出ますよ。変わっていく味わいを楽しんでください。
杉川さん:ボトルでたっぷり作って冷蔵庫に保管しておくのもいいですね。その場合、上下に振れるように、密閉できるタイプの容器があると便利です。
水出し緑茶アレンジいろいろ
水出し緑茶の楽しみ方は、アレンジ次第でさらに広がります。水出し緑茶の淹れ方そのものにアレンジを加えた「水出しハーブ緑茶」や、水出し緑茶をほかの素材と組み合わせて作るアレンジレシピなどをご紹介します。
緑茶+ハーブで爽やかに!「水出しハーブ緑茶」
【材料(400mlボトルを使う場合)】
- 茶葉 2g
- ハーブ(数種類) お好みで
- 氷 適量(2、3個)
- 水 400ml
※茶葉・水の量は、ボトルの大きさによって調整してください。
杉川さん:ハーブは、好みやその時手に入るものを自由に使ってもらえば。ドライハーブもいいですが、生の方がフレッシュな味わいになるのでおすすめです。
僕はアップルミント、カモミール(花の部分)、レモングラスの組み合わせが気に入っています。アップルミントは清涼感、カモミールは甘い香り、レモングラスはレモンと同じシトラールという香気成分が入っていて爽やかさがあります。
レモングラスはレモンの皮でも代用できますよ。その場合、ノンワックスのものを選んでください。
1. ボトルに氷と茶葉とハーブを入れます。ハーブが入るので茶葉の量は2gと、水出し緑茶を作るとき(5g)よりもぐっと少なめです。
2.水を入れて蓋をして、冷蔵庫で30分以上置いておきます。
3. 30分経ったら完成。水出し緑茶のうま味にハーブの爽やかさがプラスされておいしいです。
杉川さん:お茶が入ることで、ハーブの青臭さがほどよく抑えられて飲み口が良くなります。これも何回か水を入れ替えて楽しめますよ。
レモン、トニックウォーター、緑茶、塩で作る「お茶塩レモンスカッシュ」
【材料】
- 水出し緑茶 50ml
- 氷 適量(3、4個)
- トニックウォーター 150ml
- レモン 2切れ
- 塩 適量
- ミント(あれば) お好みで
1. カップやグラスに氷を入れてトニックウォーターを注いだら、レモン2切れを絞ってそのまま皮ごと入れます。
杉川さん:レモンの爽やかな香りは皮の部分に多く含まれるので、皮ごと使うのがポイントです。先ほどの水出しハーブ緑茶と同様、ノンワックスのものを選んでください。
2. 最初に紹介した方法で作った、水出し緑茶を注ぎます。
3. 氷の上にのせるように塩をパラパラと振ります。
4. 完成。汗をかいた後に飲みたくなる、さっぱり感と体に染みわたる甘さがあるドリンクです。水出し緑茶が入ることによって、清涼感と香りがプラスされて爽やかです。
杉川さん:もしあれば、ミントを添えると彩りがよくなりますよ。
煎茶+甘味もあり。「お茶シロップ」
杉川さん:煎茶を甘くして楽しむのも面白いです。コーヒーや紅茶、抹茶シロップはよくあるので、それと同じような感覚ですね。
【材料】
- 煎茶 10g
- 水 60ml
- 氷 適量(2、3個)
- ガムシロップ 1つ
1. 煎茶、氷、水をボトルに入れて10分置いておく(もっと長くても大丈夫です)。
2. ボトルを上下に振ります。
杉川さん:煎茶を揺らすと雑味が出てきます。実は、雑味があった方がシロップとの相性はいいんです。
3. お好みの容器に注いでガムシロップを入れたら完成です。
杉川さん:抹茶シロップはよくありますが、煎茶シロップも爽やかでさっぱりしていていいですよ。白玉やアイスにかけたり、かき氷のシロップにしたりして使っています。
かき氷に使う時は、氷がひたひたになるくらいたっぷり使うのがポイント。さっぱり&あっさりした香りと味わいで、するする喉を通っていきます。抹茶とはひと味違った、体に染みるような優しい感じがします。
お茶の可能性は無限大! 気分に合わせて自由に楽しもう
──杉川さん、いろいろ教えていただいてありがとうございました。お茶ってこんなに幅広く使えるんですね。お茶どころ鹿児島では、どんな風に飲まれてきたのでしょうか?
杉川さん:昔の人は朝に一煎目を淹れて、仕事前に飲んだり、仏壇に供えていました。その後、急須のお茶をしっかり出しきって中の水分がない状態にして、冷蔵庫に保管しておくんです。10時くらいの休憩で帰ってきたら、お湯を入れて二煎目を飲む。また出しきって冷蔵庫へ。お昼に帰ってきて三煎目……と。
晩ご飯を食べる時には出がらしで、お茶というよりほぼ白湯。でも、それはそれであっさりしていて、お米と合わせるとすごくちょうどいいんです。
▲霧島の茶畑(画像提供:きりん商店)
──ずっと濃いと疲れますよね。何度も淹れられるのはコーヒーとは違う面白さですね。
杉川さん:コーヒーもセカンドドリップ、サードドリップができるかもしれませんよ(笑)。
それと、コーヒーはスイーツの素材として幅広い使われ方をしていますよね。でもお茶って、煎茶になるとお湯や水で淹れる使われ方ばかりになっちゃう。そこはもったいないなと思っていて。お茶をコーヒーと同じくらい自由な素材として考えれば、もっと世界が広がると思うので、僕はそれを研究しています。
▲霧島茶を使ったクラフトコーラを研究・開発して「自家製クラフトコーラ」として販売(画像提供:きりん商店)
▲出し切った煎茶は、お浸しのような感覚でドレッシングをかけて食べることもできます。胡麻ドレッシングが特に合うそう
▲新しい使い方だけでなく、昔ながらのやり方も楽しんでいます。きりん商店では、現在入手することが困難な「手もみ茶」の店頭実演イベントを毎年開催。手もみ師が6~7時間茶葉を揉み続けて、深く艶がある藍色のお茶ができあがる様子を見学できます(画像提供:きりん商店)
──お茶を楽しむには、どういう心構えでいればいいと思いますか?
杉川さん:「お茶だ」って構えないことかな。急須で淹れるイメージが定着していると思いますが、必ずしもその必要はなく、いろんな道具や方法を使っていいんです。
伝統的な部分もあるけど、今のライフスタイルに合った飲み方を見つければもっと身近になるのかも。おいしければそれでいいし、楽しむのが一番です。
──ありがとうございました。最後に何かメッセージはありますか?
杉川さん:僕にとってお茶は一種の“エンターテインメント”であり“コミュニケーションツール”なんです。お店に来てくれたお客さんへの「お茶一杯どうですか?」で会話のきっかけができて交流が広がってきました。
そして、お茶っておいしかったり、リラックスできたり、楽しかったり、可能性は無限大です。今回紹介したアレンジ術も参考に、自由に家で試してみてください。そしていつかぜひ、きりん商店に遊びに来てくださいね!
お店情報
きりん商店
住所:鹿児島県霧島市牧園町宿窪田1424-2
電話:0995-76-1355
営業時間:10:00~17:00(木曜のみ13:00~17:00)
定休日:火曜、水曜(この他、日によってお休みをいただくことがあるので、Instagramの営業情報をご確認ください)
https://www.instagram.com/kirinsan_a_sugikawa/?hl=ja
書いた人:横田ちえ
鹿児島在住フリーライター。九州を中心に取材、WEBと紙の両方で企画から撮影、執筆まで行っています。鹿児島は灰が降るので車のワイパーが傷みやすいのが悩み。温泉が大好きです。
からの記事と詳細 ( お茶とは“エンタメ”だ。この夏常備したい「水出し緑茶」の淹れ方&アレンジ術を、鹿児島のお茶研究家に伝授してもらった - メシ通 )
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