「恩返し」ではなく「恩送り」。受けた恩をその人に返すのではなく、別の人に送る「恩送り」に取り組むカフェが、福岡県大刀洗町の就業改善センターで定期的に営業しています。オーナーは2年前に移住してきた一人の男性。「人は一人では生きられない」。田舎暮らしで気づいた支え合いの精神とは。(福岡ふかぼりメディアささっとー編集部 山根秀太)
誰かのためにお支払い
恩送りカフェを運営するのは、大刀洗町の地域おこし協力隊で、料理研究家の佐々木晋さん。「誰かを応援したり、逆に助けてもらったりできる場所をつくりたい」。福島県などでの取り組み事例を参考に、4月から恩送りカフェを始めました。 恩送りカフェは、自分が飲むコーヒー代を支払うのではなく、その後に来店する誰かのためにコーヒーをごちそうする仕組みで成り立っています。ごちそうする側は、コーヒーの無料券を購入し、コーヒーを飲んでもらいたい誰かを想像してメッセージを書き込みます。一方、ごちそうされる側は、気に入ったメッセージを見つけ、お礼の返信を無料券に書き込んで利用します。 「地域の人たちが気楽に関わり合える取り組みにしたくて。家庭でも職場でもない『サードプレイス(第三の居場所)』をつくりたいとの思いをかたちにしました。メッセージのやりとりから会話が広がることも多くて、ゆったりとした時間が流れていきます」
手紙がつなぐ善意のやりとり
メッセージを読むと、カフェで生まれた交流の跡が残っていました。「ちょっと疲れたなぁ、ゆっくりしたいなぁというあなた!たくさんほっとしてくださいね」とごちそうする側のメッセージに、「コーヒーで癒やされに来ました。めちゃほっとさせてもらいます」との返信。 ほかにも、「農作業の合間に涼しい場所でいただくコーヒーは癒やしの時間でした」「おいしくコーヒーをいただきました。真心こもったメッセージありがとうございます」など、感謝の言葉があふれています。 佐々木さんは「手紙を書いたりもらったりする機会が減っているので、手書きのメッセージに温かみが感じられます。双方にとって『今日もいい一日だった』と思えるきっかけになれば」と話します。
「人は一人では生きられない」
佐々木さんは8月で地域おこし協力隊としての役割を終える予定です。「協力隊として地方で暮らしてみて、人は一人では生きられないと実感しました。地元の方に野菜をもらったり、応援してもらったりして人とのつながりによって豊かで人間らしい生活ができると感じます。恩送りカフェは小さな取り組みですが、地域の価値としてこれからも続いてほしいです」 次回の恩送りカフェは7月30日(金)を予定しています。
読売新聞
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