コーヒーの粉をセットしてお湯を注ぎ、プランジャーで圧力をかけることで手軽に濃いコーヒーを抽出できるエアロプレスは、2005年に開発された比較的新しい器具です。そんなエアロプレスを開発したアラン・アドラー氏は、ギネス記録の飛距離を持つフライングディスク「Aerobie Pro」の発明者でもあります。おもちゃとコーヒー器具という異なる分野で大きな発明を行ったアドラー氏から学ぶ「発明のヒント」を、ライターのザカリー・クロケット氏がつづっています。
The Invention of the AeroPress
https://priceonomics.com/the-invention-of-the-aeropress/
わずか30ドル(約3300円)程度で購入可能なプラスチック製のエアロプレスは非常に人気が高く、コーヒー愛好家の中には「エアロプレスで抽出したコーヒーは、1000ドル(約11万円)するコーヒーマシンで抽出したコーヒーよりもおいしい」と主張する人もいるとのこと。2005年に発明されて以来、エアロプレスは世界中で愛されるコーヒー器具となっていますが、意外にもエアロプレスを開発・販売するのはコーヒーマシンのメーカーではなく、フライングディスクを製造する「Aerobie」という企業です。
カリフォルニア州のパロアルトに本拠を置くAerobieの社長であるアドラー氏は1938年に生まれ、子どもの頃からDIYや修理でお小遣いを稼いでいたとのこと。アドラー氏は1960年代には民間企業のエンジニアとして潜水艦や原子炉の制御システム、軍用機に搭載される機器などの開発に携わる傍ら、スタンフォード大学で機械工学の講師も務めていました。
「新しい学問を学ぶこと以上に幸せなものはありませんでした」と語るアドラー氏は、強い好奇心を持ってさまざまな趣味を追究してきたそうで、機械工作や尺八の演奏なども趣味にしているとのこと。そんなアドラー氏が最ものめり込んだのが「発明」であり、放物面鏡を利用した天文機器や天文観測を支援するコンピュータープログラム、ヨットの設計など、さまざまなものを発明してきました。アドラー氏が持っている特許は40を超えるそうです。
そんなアドラー氏は1970年代の半ば、既存のフリスビーを改良するというプロジェクトに取り組んだそうで、1978年には既存のものより飛距離を大きく伸ばせるフライングディスクを開発。最初におもちゃメーカーのパーカー・ブラザーズに持ち込んだ際は、その飛距離は販売マネージャーを驚かせたものの、「全体がプラスチック製でレクリエーションで使うには硬すぎる」という理由で製品化を断られてしまったとのこと。この際、アドラー氏はフライングディスクのふちをゴムで裏打ちする方法についても伝えましたが、これまでに検討されたことがない技術だったため、パーカー・ブラザーズはアドラー氏の解決策は実行不可能だと却下したそうです。
それでも自身が開発したフライングディスクの可能性を諦めなかったアドラー氏は、数十万円を支払って企業に依頼し、プロトタイプの金型を作ってもらいました。金型を元に自身の手で安全性を高めたフライングディスクを再びパーカー・ブラザーズの担当者に見せたところ、パーカー・ブラザーズはアドラー氏から権利を買い取り、「Skyro」という商品名で発売したとのこと。
Skyroはパーカー・ブラザーズの元で100万個ほど売れたそうですが、「特定の速度で投げられないと真っ直ぐに飛ばない」という問題を抱えていました。そこでアドラー氏は1980年代初頭、パーカー・ブラザーズがSkyroへの関心を弱めたタイミングで権利を買い戻し、スタンフォード大学で工学教授として働きながら改良を進めたそうです。1984年にコンピューターでフライングディスクのフライトシミュレーターを作成したアドラー氏は、「見えない氷の上を滑るように」飛ばすことができるフライングディスクの開発に成功。Aerobieの前身であるSuperflightという企業を設立し、「Aerobie Pro」という名前で新たなフリスビーを販売することにしました。
「スタンフォード大学の工学教授がとてつもない飛距離が出るおもちゃを作った」という話題は多くの人目を集め、運にも恵まれてAerobie Proの売れ行きは好調だったとのこと。以下のムービーでは、フライングディスクのワールドチャンピオンであるスコット・ジマーマン氏が、アメリカンフットボール場でAerobie Proを投げる様子を見ることができます。
Aerobie Aloha Stadium - YouTube
左の男性がアドラー氏、右がジマーマン氏。
軽く投げても長い飛距離を出せるAerobie Proの性能に、アドラー氏は強い自信を持っているようです。
実際にアドラー氏がAerobie Proを軽く投げると……
まるで空中を滑るように安定した軌道でAerobie Proが飛びました。
ワールドチャンピオンであるジマーマン氏がコートの片側から投げると……
Aerobie Proは予想以上の高さで飛行。
そのまま客席の向こう側まで飛んでいきました。
Aerobie Proが打ち立てた406mという飛距離は、フライングディスクの最長飛距離としてギネス記録にも認定されています。Aerobie Proは記事作成時点でも全世界で販売されており、日本のAmazonからもAerobieを購入可能。おもちゃメーカーは定期的なスパンで新商品を打ち出していますが、アドラー氏は無理やり新商品を作り出そうとするあまり、既存のおもちゃが改悪されてしまうケースも見られると指摘し、必ずしもAerobie Proを変更する必要はないと考えているとのこと。
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おもちゃメーカーの社長として成功を収めたアドラー氏でしたが、21世紀になって突如としてこれまで参入していなかったコーヒー器具の開発に乗り出します。コーヒー好きのアドラー氏は、「持っているコーヒーメーカーが1回の抽出で6~8杯分ものコーヒーを作ってしまう」という不満を募らせていたそうで、1杯だけコーヒーを飲みたい時に最適な器具を自分で作ることに決めたとのこと。
既存のペーパードリップを試したアドラー氏は、ペーパードリップには「平均の抽出時間が4~5分もかかる」という問題点があることを発見。抽出時間が長くなるほど豆の酸味や苦みがたくさんコーヒーに抽出されてしまうため、アドラー氏は抽出時間を減らすことでおいしいコーヒーを作ることができると考えました。
抽出時間を減らすために空気圧を利用するアイデアを思いついたアドラー氏は、その数週間後にはプロトタイプの作成に着手。自転車の空気入れに似たプロトタイプを使ってコーヒーを作ったところ、非常においしいコーヒーができたそうです。ビジネスマネージャーのアレックス・テナント氏はこのコーヒーを試飲して、「アラン、これはとんでもなく売れるぞ」と言ったとのこと。
その後も1年にわたってデザインの改良を加え、さまざまなサイズと構成を試したアドラー氏は、ついに現在のようなエアロプレスに辿り着きました。フィルターにコーヒーの粉をセットし、お湯を注いで10秒間かき混ぜてからプランジャーを押し出して抽出するという手法により、抽出時間を1分にまで短縮することに成功。10万ドル(約1100万円)相当の金型を注文して生産を開始し、2005年に行われたシアトル・コーヒー・フェスで一般にお披露目しました。
コーヒー愛好家コミュニティの一部からは好意的に受け入れられたエアロプレスでしたが、おもちゃやスポーツ用品メーカーとしてのブランドを確立してきたAerobieが、いきなりコーヒー業界に参入することは容易ではありませんでした。2007年のエアロプレスの売り上げは2006年よりも低迷し、生産が一時停止しかけるほどだったとのこと。
しかし、テナント氏が「エアロプレスの品質とコーヒーのおいしさが私たちの根本的な戦略であることは間違いありません」と述べるように、Aerobieはエアロプレスの素晴らしさについて自信をもっていました。そこでAerobieは展示会に積極的に参加し、エアロプレスを無料でコーヒー専門家やフードライターに送ることで、次第にエアロプレスの評判を浸透させていったそうです。その結果、2008年にはエアロプレスの売り上げも上向き、その後の数年で100万台以上を販売することに成功しました。
また、コーヒーコミュニティのフォーラムであるCoffeeGeekに建てられた「Aerobie AeroPress」というスレッドにアドラー氏本人も参加し、600件を超える質問に回答するといった草の根的な活動も行っているとのこと。エアロプレスはインターネット上で大きな評判を獲得して全世界56カ国で販売されており、特に北欧からの注文が多いそうです。日本国内からも、Amazonで注文可能となっています。
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アドラー氏が住むカリフォルニア州ロスアルトスの自宅ガレージは、旋盤とフライス盤でほとんどのスペースが占められており、車が駐車できない状態になっているとのこと。「ここで発明が生まれました」とアドラー氏は語っており、ガレージにはさまざまな製品のプロトタイプや型などが詰め込まれているそうです。
発明家として著名になったアドラー氏は1年に数回ほど地元の中学校に行き、発明についての授業を行っているとのこと。アドラー氏が授業で教える「発明に関する5つのヒント」が以下。
◆1:「発明の背後にある科学について可能な限り学ぶ」
◆2:「現在の製品と特許を見て、アイデアの状態を入念に調べる」
◆3:「上手くいかないと思っても、まずはやってみる。時にはラッキーが起こるから」
◆4:「発明の価値について客観的になる。人々は発明のスリルに夢中になり、上手くいかないアイデアを追求してお金を浪費してしまいがち」
◆5:「自分が発明品を売らなくても、特許をメーカーに売って発明品を世に出すことができる」
クロケット氏はアドラー氏が成功した理由について、「教えることができない6番目のスキル『忍耐強さ』を持っているからです」と指摘。たとえば、Skyroを発明する前にもアドラー氏はSlapsieというおもちゃを発明していましたが、これはそれほど売れませんでした。また、Skyroをパーカー・ブラザーズに売り込んだ際も、最初は担当者に断られてしまいましたが、自分で多額の出資を行ってプロトタイプを作成し、売り込みに成功しています。こうした忍耐強さにより、アドラー氏はフライングディスクとコーヒー器具という異なる分野で成功できたとクロケット氏は述べました。
なお、コーヒーマシン「AeroPress」が実際にどんなものなのかは、以下の記事から読むことが可能です。
空気の力で豆のうまさを最大限に引き出すというコーヒーマシン「AeroPress」を使ってコーヒーを淹れてみました - GIGAZINE
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April 06, 2020 at 05:00AM
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空気の力でコーヒーを抽出する「エアロプレス」やギネス級の飛距離を誇るフライングディスクを開発した人物から学ぶ「発明の秘訣」とは? - GIGAZINE
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