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Monday, May 1, 2023

【話の肖像画】裏千家前家元・千玄室<27> 日本人こそ、毅然とお茶を - 産経ニュース

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2年ぶりの「初釜式」で客に茶を呈する=令和4年1月7日、京都市上京区の今日庵 (渡辺恭晃撮影)

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《人と人との接触を制限せざるを得ない新型コロナウイルスの感染拡大は、茶道にも大きな影響を与えた。当初は茶会も稽古場も自粛を余儀なくされたが、少しずつ「お茶をしたい」との声が高まり、コロナ禍であっても、さまざまな工夫で茶を楽しむ動きが広がった》

ここ数年はこれまでのようにお茶会を楽しむことができませんでした。ありがたいことに、最近、ようやく元の姿に近づいてまいりました。

本来、お茶というのは亭主と客とで楽しむものです。近年は、大寄せの茶会(大人数の客を招いて行われる茶会のこと)が主流になっておりまして、お茶会というと皆さん、そちらを思い浮かべるのですが、お茶とは元来「侘(わ)びのお茶」であり、茶会も少人数で開かれるものでした。その意味においては、少ない人数のお茶会もまたよろしいと思います。

《茶道で出される茶には濃茶と薄茶があり、濃茶は普通、1碗(わん)を数名の客で飲み回すがコロナ禍で自粛されるようになった》

利休居士の時代は濃茶でした。今でも濃茶が主ではありますが、お茶会では薄茶が多くなっています。ですが、大事なのはやはり濃茶であって、「一座建立(いちざこんりゅう)」という、茶道でも重要な精神が、同じ1碗を回し飲むというところに具現化されています。それは、亭主と客が心を通い合わせ、一つの茶席を創り上げるということなのです。

《最初の緊急事態宣言が明けた令和2年の初夏、当代の16代千宗室家元が濃茶を1人に1碗ずつ提供する点前「各服点(かくふくだて)」を裏千家のホームページで紹介し話題になった。同じように感染症が広がった明治期に、13代円能斎が創案したものを現代に合うように工夫。現在はほとんどがこの点前になっている》

お茶会では亭主が「お茶を一服いかがですか?」といい茶を点(た)て、客は静かに釜の音を聞くのです。やはり人というものは、いつも心穏やかにしているのがよろしいのです。最近、コロナだ、戦争だと、皆も世の中もイライラしています。そのイライラを静めていかなければならないと思います。

そのためにも一度、茶室に入って、釜の湯が沸く「シュー」という音に、耳を傾けてみてはいかがでしょう。すっとさりげなく生けられた花に目をとめてみてはどうですか。茶室の中に自然があることを感じてみるのです。そうして、お互いに勧め合い、譲り合いながらお茶をいただけば、皆、心が安らぐでしょう。お茶の効能は、飲むことだけではありません。

お茶は伝統を守りつつ、一方で、工夫を重ねて進化してまいりました。コロナ禍で、若い人たちがインターネットなどを使ってお茶会を楽しむことも増えているようです。けっこうなことです。

ただ、これは申し上げておきたいと思います。お茶とは清浄なものです。まず、茶室に入る前に客は、つくばいで手と口を清めます。洗うのではありません、清めるのです。亭主の点前も、帛紗(ふくさ)(茶器を清めるための布)を使って道具を清め、茶巾(ちゃきん)を使って茶碗を清めます。水屋(茶席のバックヤード)で清めた上に、さらにまたお客さまの前で清めるのです。これも拭くのではなく、清める。茶道ではあらゆるものが清浄であることを求められるのです。

お茶の力というのはすごいものです。それを皆が知りません。日本人も知らない。それを広めるために私は努めてきました。今や、外国人が着物を着てお茶を楽しんでいる時代です。日本人こそ、毅然(きぜん)とお茶をいただきたいものです。(聞き手 山上直子)

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