「深蒸し菊川茶」が、産地と特産品の組み合わせ名称を知的財産と認定する地理的表示(GI)保護制度に登録された。菊川市茶業協会など関係者の熱意に敬意を表したい。以前、菊川市役所でいただいたお茶がとてもおいしかったことを思い出した。
菊川市は日本一の茶産地牧之原台地の一画にあり、静岡県茶業研究センター(旧県茶業試験場)もここにある。ただ、深蒸し茶は菊川だけかというと、「発祥の地」には異説もあると聞くので、産地名を前面に出すのはもろ刃の剣かもしれない。
茶づくり日本一を競い毎年行われる全国茶品評会で成績優秀な市町村に贈られる「産地賞」を見ると、昨年第76回の深蒸し煎茶の部は、隣の掛川市が3年連続24回目の受賞を果たした。この地域でも市境を越えて茶工場に運ばれる生葉はある。
そもそも「深蒸し」とは? 茶は摘採すると荒茶工場で蒸し、揉み、乾燥して荒茶にする。蒸すのは発酵させないためだ。牧之原は日当たりがいいため葉の硬化が早く苦くなりやすい。蒸し工程を長くすることで、入れると濃厚な黄緑色、まろやかな味になる。
昭和40年ごろに商品化されると好評を博した。普通煎茶を「浅蒸し」と呼ぶこともある。深蒸し製法は、江戸時代に京都・宇治で開発された蒸し煎茶「青製」、平成の世に登場したドリンク緑茶などとともに茶業史に刻まれる技術革新と言える。
思えば、牧之原開拓も新時代の扉だった。明治維新で失業した幕臣らが入植。作るのが米や芋ではなく、戦略作物の茶だったから、刀をくわに持ち替えたのではないか。静岡茶業が転機と言われて久しい。令和のイノベーションに期待したい。
(論説副委員長・佐藤学)
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