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Saturday, February 18, 2023

DMOが磨き上げたツアーを体験してみた、静岡・駿河地域の「お茶物語」をサイクリングでめぐる旅 - トラベルボイス(観光産業ニュース)

sagutgu.blogspot.com

静岡県中部地域の観光を推進する地域連携DMO「するが企画観光局」は、駿河地域のキラーコンテンツである「お茶」とサステナブルな「サイクリング」を組み合わせたツアーを企画した。今春にも地元旅行会社が販売・催行を始める予定だ。参加者が自身のロードバイクで走るツアーとスポーツ電動自転車(e-bike)を活用したツアーの2商品。お茶農園を自転車で巡り、本物のお茶を味わいながら、静岡の風土をまるごと感じる旅を2日間、ライトなe-bikeで体験してみた。

1日目: カフェから富士見の茶園、夜はティーペアリング

出発はJR興津(おきつ)駅。まず、興津川沿いを北上し、茶農家直営のカフェ「グリーンエイトカフェ」を目指した。約12キロのライドだ。途中、川沿いの集落をいくつか抜けた。北上するにつれて、起伏も出てきたが、そこはe-bikeの力。電動の力を借りると、ペダルを漕ぐ足も軽い。ローレベルの「エコモード」アシストで緩やかに続く坂道を快適に登り、風を切って下った。

グリーンエイトカフェは、新東名高速道路の脇下に広がる茶園の一角にある。和田島浄水場のひょうたん型の浄水塔が目印だ。茶工場の休憩所だったところを「田舎のおしゃれカフェ」に改装した。両河内地域のお茶農家8軒が集まって立ち上げたグリーンエイト有限会社が運営している。

両河内の山間で作られる茶葉は「浅蒸し茶」として毎年高値で取引されているという。カフェのメニューは、その「浅蒸し茶」や「深蒸し茶」のほか、「和紅茶」の人気も高い。和紅茶は夏に収穫した茶葉を発酵させて作る。グリーンエイト社長の北條広樹さんによると、夏の茶葉は、春の一番茶に比べると取引価格が安値になるため、和紅茶にすることでその付加価値を高めているという。両河内の和紅茶は、渋みが少なくストレートですっきり飲めるのが特徴だ。

カフェでアイスティーとサンドイッチを購入して、歩いて5分程ところにある茶畑の中に作られたティーテラスに向かった。産地の真ん中で日本茶や和紅茶を飲む特別感を楽しみに訪れる人も多いという。4人ほどがちょうどいい空間。利用にあたっては予約も受け付けている。

茶畑の真ん中にティーテラス。ピクニック気分でグリーンエイトのお茶を。

「お茶は低迷していると言われていますが、静岡の定番としてなくなることはありません。高品質なお茶の産地である両河内のお茶に関わっていることを活かして、駿河地域の魅力を発信していきたいと思っています」。北條さんは、お茶の普及だけでなく、地域の活性化にも目を向けている。

グリーンエイトの北條さんは、両河内のお茶に誇りを持っている。

グリーンエイトカフェを後にして次に向かったのは約6キロ先の「おかかえ茶園かねぶん」。茶畑から富士山が一望できる風景がSNSなどでバズった場所にある茶園だ。

山間の集落に入ると、急に山道の勾配がキツくなった。ここは、「ハイモード」アシストに切り替え。それでも、息があがる。急峻な坂道を登っていると、視界が一気に開け、眼下には西に傾いた陽の光に照らされた茶畑と駿河湾が見渡せた。

さらに登り、静岡市の天然記念物にも指定されている「吉原一本杉」を過ぎると、東方には茶畑の奥に山々が連なり、その上にまだらな雲が広がる。この雲が晴れると、そこには富士山が顔を出すが、それは時の運。早朝なら、山々と茶畑の間の谷に幽玄な雲海が流れることもあるが、それもその時の条件次第。それでも、この標高500メートルからの絶景は、息を切らして登ってきた価値があるものだ。

広角の風景を堪能したあとは、「かねぶん喫茶室」で、ここ吉原地区の手揉み茶を、六代目農園主の白鳥安章さんの手ほどきを受けながら、自分で入れてみた。ビーカーでお湯の量を測り、温度計でその温度を調整し、急須に注ぎ、タイマーで時間を管理する。科学実験のようだが、一杯目、二杯目、三杯目とお茶の味が変わっていき、お茶の奥深さを感じる。お茶の旨味がダイレクトにわかる氷出し茶を味わったあと、茶殻を塩をつけて食す。茶葉ひとつで広がる多様で立体的な嗜好の世界を楽しんだ。

自分でお茶を淹れてみることに体験の意味がある。白鳥さんは、お茶を買いに来てくれる人にお茶を出していたが、その延長線として、2015年ごろからこの本格的なお茶体験の提供を始めたという。「お茶プラス富士山はアメージングな体験。地域の宝をうまく活用していくことが大事だと思っています」と白鳥さん。唯一無二の風光と風土は、ここを訪れなければ分からない。

「日の出の富士山を見た後にお茶体験もオススメ」と白鳥さん夕食は静岡市内の「覚弥別墅(かくやべっしょ)」で、するが地域の食材を活かした和食とお茶の「ティーペアリング」を体験してみた。マルヒデ岩崎製茶社長で茶匠の岩崎泰久さんが、提供される料理に合わせてさまざまなお茶をその場で淹れてくれる。この日の茶葉は「初摘み まちこ」。特殊製法でボトル詰された「ボトリングティー」、氷だし茶、炒りたての玄米茶とほうじ茶など、それぞれの特徴や製法などの説明を受けながら、料理と共に楽しんだ。

静岡市のインバウンドオペレーターFIEJA社長の永松典子さんは、「お茶のスートリー化が大切になると思います」と話す。するが地域の物語をツアーで紡ぐことで「付加価値が上がる」との考えだ。FIEJAは、するが企画観光局が開発した「お茶×サイクリング」ツアーを販売・催行する予定だ。

炒っている最中に漂ってくる香ばし香りも料理のひとつ。

2日目: 茶染め体験から玉露茶、観光受け入れのパイオニア茶園へ

2日目は、静岡市の用宗港を北上した。商品化に向けて2022年10月に実施したモニターコースを逆走する形。まずは伝統工芸施設「駿府の工房 匠宿」まで。丸子川沿いを北上し、旧東海道の丸子宿を経由する約6キロのライドだ。

「駿府の工房 匠宿」は、今川・徳川時代から受け継がれる駿河竹千筋細工、和染、木工、漆、陶芸などの工芸を一堂に集めた体験施設。2021年6月にカフェを併設しリニューアルオープンした。統括責任者の杉山浩太さんは「旅行者を呼び込む観光施設というよりも、地元の人たちに静岡の工芸を知ってもらう場所です」と説明する。実際に一線で活躍する匠の技に触れてもらうことで、その技術を後世に残す人材も育てていきたいという。

匠宿は、「茶染め抜染」を体験してみた。あらかじめ茶染めされたミニトートバッグに好きな柄を選んで型染めする。これも「お茶のストーリー化」のひとつだ。

用意された型だけでなく、オリジナルの柄を描こくともできる。

茶染めの技法は、鷲巣染物店五代目で「お茶染Washizu」を主宰する鷲巣恭一郎さんが、静岡の伝統工芸「駿河和染」を発展させて、20年ほど前に生み出した。染料には、さまざまな理由で廃棄される茶葉を使う。試行錯誤の末に堅牢度の高い「煮染め」による染色に行き着いたという。

鷲巣さんは、体験教室のインストラクターを務めるとともに、茶染め作家として、デザイン性の高いフッションアイテムも創作している。染料として煮出した茶葉は、おからや木クズなど無添加の産業廃棄物と混ぜて堆肥に。サステナブルなサイクルのなかで、伝統工芸をアート作品に進化させている。

「駿府の工房 匠宿」を後にし、旧東海道を走る。宇津ノ谷峠を「ハイモード」で登り切ると、古色蒼然とした「明治のトンネル」が現れた。明治時代の文化遺産として1997年に現役トンネルとしては日本で初めて「国の登録有形文化財」に指定された。カンテラの灯りが怪しいさを醸し出すこのトンネルは、心霊スポットとしても知られ、地元では通称「お化けトンネル」と呼ばれていという。

「明治のトンネル」は明治9年(1876年)に開通した。

明治のトンネルをくぐると下り坂。風を切って下り切ると岡部宿に入った。「大旅籠柏屋」で休憩。東海道五十三次の21番目の宿場である岡部宿の往時の様子を伝える場所として、ここも「国の登録有形文化財」に指定されている。

岡部宿からは朝比奈川を北上。地元産の玉露茶が楽しめる体験施設「玉露の里」に向かった。「駿府の工房 匠宿」からは約13キロのライドになる。静岡県藤枝市岡部は、福岡県八女地方、京都の宇治と並ぶ日本三大玉露の産地。日本庭園を臨む茶室「瓢月亭」で、玉露をたててもらい一服すると、甘味と旨味が口に広がり、芳醇な香りが鼻に抜けた。

「瓢月亭」での体験にはインバウンド客も多いという。2日間のツアーの最後に訪れたのは、観光客受け入れのパイオニア的存在の「森内茶農園」。安倍川と藁科川流域にある本山地区は、江戸時代から徳川家康に献上されたお茶をつくる歴史ある茶産地だという。園主で日本茶インストラクターの森内真澄さんに、茶畑を案内してもらった後、自宅の「土間カフェ」へ。まず、ウエルカムドリンクとしてミントを入れたお茶でリフレッシュした。

飲み比べ体験では、さまざまな製造方法の手摘み茶を楽しみながら、茶葉の摘み取り方法、お茶の淹れ方、成分などを教えてくれる。この日味わった品種は「香駿」。普通に蒸した「煎茶」、微発酵のウーロン茶、半発酵の「ウーロン茶」、そして発酵の「和紅茶」を同じ品種で味わってみる。茶葉も、お茶の色も香りも味も4種4通り。ひとつの品種から多様に広がるお茶の世界は、この土地の歴史と文化そのものだ。

森内茶農園は江戸時代から続く茶農家。「有機栽培にこだわっています」と森内さん

日本茶は世界でも人気が高まっており、コロナ前は訪日外国人も多く訪れていた。森内さんは、自作した英語のテキストを用いながら外国人にも日本語で説明するという。「お茶は世界共通語。下手な英語はいりませんね」と笑う。その土地の風土で育てられた茶葉を、自社工場でお茶に生産し、その場でいただく贅沢には、言葉を超えたものがある。

「お茶は、淹れるお湯の温度によって味が変わりますが、それぞれが好きな飲み方で楽しんでもらえれば、それでいいんだと思います」。

同じ茶葉を4通りの製造方法で。最後は茶殻に茶の実油を垂らして食べてみる。

肩肘張らない本物のお茶体験。e-bikeで走った疲れが心地よくほどけていく。土間カフェを出ると、もう外は暗くなっていた。

トラベルジャーナリスト 山田友樹

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