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キルタ / Kiruta Wataru (@kiruta_wataru)
1993年生まれ。外資系広告代理店にクリエイティブとして所属しながら「yutori」のPRを創業期より担当。2021年5月に独立。広報PR活動のデザインやクリエイティブディレクションを継続しつつ、自身でも「Ochill」を主催。その他、お茶のスタートアップ「TeaRoom」、蒸留ベンチャー「エシカル・スピリッツ」、狩猟の追体験「罠ブラザーズ」、ウェルネスプロテイン「KOREDAKE」、ふたり指輪「CONNECT」、オーダーメイド型ライブハウス「TOKIO TOKYO」などの多方面の企業やブランドに携わる。それぞれのプロジェクトによって役割、肩書きが異なり、マルチに活躍する。
ありのままの自分に「堕ちていく」
キルタさんが主催するアートコレクティブ「Ochill(オチル)」ですが、そのコンセプトへの共感がSNS上で多く見られました。その着想から伺ってもいいでしょうか。
Ochill(オチル)は、日本らしい well-being を well-downと再解釈し、集団的創造と探究を行うアートコレクティブです。「肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態」を well-being と定義するなら、私たちは「社会的に欠けていても、精神的に負荷がなく、自然体である自分に満たされていく状態」を【well-down】と再解釈します。肩肘張らずに、素直に、ありのままの自分に堕ちていく姿も、人の在るべきひとつの状態として提唱しています。(引用:『日本発のシーシャブランド開発プロジェクト『TEASHA』が発足』)
最近だと「ウェルビーイング=well-being」という言葉が広まっていますよね。
WHOが提唱している定義だと「幸福、安寧、福利」であり、「肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態」と記載されていて。なんとなく個人的には少し疲れてしまうなと思ったんですよね。もうちょっと自分にしっくりくる考え方がある気がして。
たとえば、たまには浴びるようにお酒を飲みたいし、友だちと朝までダベっていたい日もあるし、深夜のコンビニでお菓子とか買って食べたいし(笑)
一般的には健康ではないし、社会的に欠けているかもしれない。ある種の弱さかもしれない。それでも精神的に負荷がなく、ありのままの自分でいたい。これも、ひとつのあるべき状態だと思ったんですよね。
それって「well-being」ではなくて、言い換えるなら「well-down」なんじゃないか。日本語で「堕落」などを意味する「堕ちる」も決してわるいことじゃない。意図せずにその状態になってしまうことも「恋に落ちる」「眠りに落ちる」と言ったりしますよね。
あとは、チルに「おもてなし」や「おめでとう」の接頭語「お」をつけると「おチル」になる。そこから「Ochill(オチル)」という名が生まれました。
その「Ochill」は会社名とはまた別のものなのでしょうか?
一応、法人名ではあるものの、会社ではなくて「アートコレクティブ」と定義しています。
というのも、「well-down」をテーマに、共感してくれた人たちでプロジェクトや、作品づくりをしていくことを想定していて。その都度、関わる人が変わっていい。やりたいこと、おもしろいと思う「表現」が偶然「事業」になればいいなと動き出したところです。
僕らはいったい何に満足するのだろう
「well-down」の概念は、どのようなサービスや事業につながっていくのでしょうか。
一応「well-down」はテーマなので、いろいろな領域で「ありのままの自分へと堕ちていく」ような体験をつくっていきたいと考えています。言い換えると、“時を溶かすような時間”の提供につながるのかな、と思っています。
よく「体験を売る」は聞きますが、「時を溶かす」はおもしろい表現だと思いました。とくに大人になってから、そういった時間は本当に少ないですよね…。
そうなんですよね。そう思うと“時を溶かす要因”のひとつは、自らが価値を見出しているか、だと思っています。
日本語には「足るを知る」という言葉がありますよね。あまり欲張らず、いまの生活のなかでの満足を見出す、みたいな。でも、今って「足る」がなかなか知れない時代。いくらでもお金がほしいし、おいしいものも食べたいし、もっと承認されたいし。
何に自分が満足できるのか、よくわからない。そういった時代に、ぼくらは「足るを知る」を模索しているところです。
Photo by Parker Fitzgerald (RANSOM LTD.)
「打ち勝っていくこと、何かを新たに獲得していくより、受け流していくこと、“足るを知る”が、日本らしいチルアウトのひとつのカタチなのかもしれないですね。昔からいろいろな災害に見舞われてきた日本ならではの価値観といえるのかも」とキルタさん。
その中のひとつのプロジェクトが『TEASHA(ティーシャ)』ということですね。
そうですね。もともとシーシャが好きで、水道橋にあるシーシャカフェ「いわしくらぶ」に通っていて。そこの店主である磯川大地、キャピタルアートコレクティブ「MIKKE」の井上拓美と共に「Ochill」を立ち上げ、プロジェクトとして『TEASHA』を進めています。
そもそものきっかけとは?
2018~2019年に視察で参加したSXSW(サウスバイサウスウエスト)がきっかけになっていて。「来年は自分たちでも何かを持って来たいね」と話をしていたんです。そのなかで「たとえば、シーシャを日本にローカライズしたらおもしろく見せられるんじゃないか」「新しいジャパニーズチルアウトな表現ができないか」という企画的な発想から始まりました。
ちょうど当時、アメリカで「こんまり」さんのNetflixの番組が大ヒットしていた時期で。いわゆるスパーク・ジョイ的なものへの注目も集まっていた。
そこからいろいろな日本的なフレーバー*を個人的な遊びで試していた結果「日本茶」が一番おいしくできて。それを発信していたら、いろいろな人たちがおもしろがってくれるようになりました。
*フレーバーとはシーシャ(水タバコ)に用いる煙の元。通常では、味や香りのついたシロップをタバコの葉に混ぜたものを使用されるものを指す。
Photo by Ayato Ozawa / Logo Design Mahiro Kamioka
『TEASHA(ティーシャ)』…日本発となるシーシャ(水タバコ)フレーバー及び、タバコ葉ではなく茶葉を使用したノンニコチンフレーバーのブランド開発及び販売を推進するプロジェクト。現在、国内外の企業や研究機関と連携しながらフレーバーや専用パイプなどハードウェアのR&D、身体への安全性分析などを進行している。東京都内を中心にシーシャを提供する店舗は増えているものの、ほぼ全てが海外からの輸入品となっている(たばこ事業法があり、関連製品の国内製造・販売のハードルが高いため)。逆に日本茶などを原料にしたフレーバーが海外で作られ、国内市場にも出てきているという。そういったなかで「日本発のシーシャブランド」の実現を目指していく。
2020年はコロナ禍でSXSWは中止になってしまい、試作品はつくったものの、持っていけなくなってしまいました。ですが、プロジェクトとしては継続し、法人化して本格的に進めていくことになりました。
すごく意外だったのが、「well-down」や『TEASHA(ティーシャ)』をおもしろがってくれる人たちのなかには、僕ら(1993年生まれ)よりも上の世代の方、経営者の方も多かったこと。お金は持っていて、ある種「高級で良いとされているもの」をたくさん知っている。それにも関わらず、決して高級品とはまだ言えない お茶を吸うという体験にすごく感動してくれていて。資本によって決められた価値ではなく、その時間、行為、空間に、価値を自ら見出せる体験が、今すごく求められている気がします。
なので、「吸うお茶」はひとつの切り口に過ぎなくて、飲むお茶はもちろんあっていいし、和菓子やお香などがあっていい。場所、空間なども含め、時を溶かすような時間”をデザインしていければと思っています。
(つづく)
取材 / 文 = 白石勝也
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