皆さんは、抹茶はお好きですか?
もちろん飲んでもおいしいですが、実は「調味料」としても超優秀。料理に使うと、うま味の相乗効果を生んでくれたり、 コクや奥行きを与えてくれたりするんです。
そこで今回は抹茶を使った手軽でおいしいレシピとして、
- 茶節(薩摩半島南部に伝わる郷土料理)
- 抹茶塩おにぎり
- 抹茶茶漬け
の3つをご紹介。どのレシピも、抹茶が全体の味のバランスを整えて、料理に華を添えてくれます。
紹介してくれるのはこの方、鹿児島県霧島市でお茶を中心とした土産物店「きりん商店」を営む、お茶研究家の杉川明寛さんです。
▲火鉢で椎茸を炙(あぶ)って迎えてくれた杉川明寛さん。これがお茶に合っておいしいんです
▲「水出し緑茶の淹れ方」を教えてくれた前回記事はこちら
▲店名の「きりん商店」は、「きりしまのよかもん(よいもの)」を略して名付けられました
▲その名の通り、店内にはお茶や調味料、椎茸、お菓子、民芸品など霧島のいいものがたくさん並んでいます
抹茶がうま味に作用する
──抹茶は料理にもいろいろ使えるんですね。
杉川さん:抹茶には、アミノ酸の一種である「テアニン」 が豊富に含まれています。テアニンは、鶏肉、豚肉、牛肉、かつお節などに多く含まれるうま味成分の「イノシン酸」と合わさると、相乗効果でうま味が5〜8倍になるとも言われています。
だから料理に使ってみると、飲むときとはまた違った楽しみ方ができますよ。
▲鮮やかな緑色がきれいな抹茶
──天ぷらを抹茶塩でいただいたりはしていましたが、自分で料理には使ったことがありませんでした。
杉川さん:抹茶を入れることで、料理全体に調和が生まれバランスがとれる感じがします。魚のすり身に抹茶を混ぜて臭み消しにする、なんて使い方もありますね。
抹茶は食材によっては風味を殺してしまったりと難しい面もあるけれど、うまく使いこなせたらものすごくいい食材なんですよ。
ひとまずおすすめのレシピをご紹介しますね。これを参考に、ご自身でも使い方の幅を広げてもらえたらと思います。
材料は3つだけ! 「茶節」
【材料】(1人分)
- かつお節 ひとつかみ
- ※理想は削りたての本枯節ですが、なんでもOK。個包装タイプのかつお節が使いやすいです
- 麦みそ 大さじ1前後
- 抹茶 0.5g
- お湯 適量
※分量は目安です。お好みで調整してください
▲材料はかつお節、麦みそ、抹茶の3つだけ
杉川さん:茶節は薩摩半島南部に伝わる郷土料理で、かつお節と麦みそに緑茶を注いで作るのが一般的ですが、今回は緑茶ではなく抹茶を使うレシピを提案したいと思います。
抹茶を使えば急須を使う必要もないのでよりお手軽ですし、まろやかなコクが生まれますよ。
──茶節はほんといいですよね。忙しい朝に手軽にエネルギーチャージできるし、お酒を飲んだ翌日や疲れているときに飲むとホッと癒されます。
杉川さん:かつお節はお好みのものを使ってOKですが、なるべく削ったばかりのかつお節を使った方が香りよくおいしいです。中でも、本枯節(かつお節の表面にカビを付けたもの。魚臭さの少ない上品な風味が特徴)は香りが良くておすすめですよ。かつお節は冷凍保存できるので、たくさん削ってもらって、小分けにして冷凍しておけばいつでも茶節が楽しめます。パックに小分けになったタイプもいいですね。
▲手軽に楽しむなら、スーパーでよく売っている個包装タイプのかつお節が便利です
杉川さん:みそは九州では麦みそが一般的です。甘くてマイルドなので、抹茶と合わせるとおいしいですよ。合わせみそ、豆みそなどでも大丈夫です。
杉川さん:抹茶がない場合は、抹茶入りの粉煎茶でも代用できます。
【作り方】
1. 3つの材料をお椀に入れる。
2.お湯を注いで完成。これだけです。
▲超お手軽。体が温まるし、かつお節や麦みそ、抹茶のコクが体に染みわたります。思わず「あーうまい!」と言いたくなる
杉川さん:先ほど説明した通り、抹茶にはテアニン、かつお節にはイノシン酸が、さらにみそには、これまたうま味成分として知られる「グルタミン酸」が含まれています。全部異なる種類のうま味成分が混ざって、口に入れた瞬間“うま味のビッグバン”が起こりますね!
▲「鹿児島素材粉のゆずこしょう(税別480円)」、「霧島の一味唐辛子(税別480円)」はきりん商店オリジナル商品
杉川さん:お好みで柚子胡椒や一味、七味などの薬味をかけてみるのもおすすめです。
──柚子胡椒はなんだかちょっとおしゃれな味になりますね。一味はピリッと引き締まっていい感じです。どちらも体が温まります。
杉川さん:茶節はアウトドア好きの人にも好評です。キャンプに行った翌朝は、ドリップコーヒーではなく茶節で始めるのにハマっている知人もいます。かつお節、みそ、抹茶を持っていくだけなので手軽だし、起きたばかりの体に染みわたってくれますよ。
あと、一人暮らしを始めた子どもへの仕送りにもおすすめです。急須どころか鍋もいらないし、茶わんに材料を入れてお湯を注ぐだけ。手軽に栄養をとれますし、活力が湧いてきます。
いつものごはんに変化を 「抹茶塩おにぎり」
【材料】(作りやすい量)
- もち麦ごはん 適量 ※もち麦はなくてもOKですが、あるとプチプチした食感が楽しめます
- 抹茶 お好みで
- 塩 一つまみ
- 海苔 お好みで
杉川さん:抹茶はふりかけ感覚で使ってもおいしいですよ。いつものごはんにちょっと変化を付けたいときにおすすめです。
【作り方】
1.もち麦を入れたごはんを炊いておきます。
2.もち麦ごはんをボウルによそって少し冷ましてから、塩一つまみ、抹茶を振りかけます。抹茶は茶こしを通して振りかけると、ダマにならず見た目もきれいに仕上がります。
3.しゃもじで混ぜます。
4. 俵型に握ります。
5.お好みで海苔を巻いて完成。ころんとした形がかわいい。おにぎりにせずお椀に盛るだけでもOK。
杉川さん:本当はもう少し小さい俵型がかわいいんですけど、僕の手ではここが限界で……。
──おいしいですね。抹茶は味も香りも上品で控えめながら、うま味やコクもあって、確実に食材の底力を上げてくれている感じがします!
杉川さん:抹茶が入ると、見た目も味も華やかになって楽しいですよ。まろやかでコクがあって、料理全体の味に調和をもたらしてくれます。
出汁と抹茶のうま味のハーモニー 「抹茶茶漬け」
【材料】(2人分)
- 水 500ml
- 昆布 5g
- かつお節 5g
- 抹茶 適量
- ごはん 適量
- 塩 一つまみ
(トッピング)
- もち麦 適量
- ごま 適量
※もち麦、ごまはなくても大丈夫ですが、香り・食感が良くなるのでぜひ使ってみてください
- 梅干し
- めんたいこ
- 韓国のり
- 赤しそのふりかけ
- シャケ
- 出汁昆布
など、お好みで
杉川さん:基本は出汁と抹茶のシンプルなお茶漬けですね。軽いものがいいときにさらっと食べられるし、トッピングで味の幅を広げればバラエティ豊かに楽しめます。最初に紹介した2つよりは手間がかかりますが、今回の僕のイチオシレシピです。
【作り方】
1.まずは昆布とかつお節で出汁をとります。鍋に昆布と水を入れて、弱火より少し強い程度で火にかけて、ぐつぐつ沸騰してきたら昆布を取り出します。
※時間がある場合は、前もって昆布を浸けておくと出汁がよりよく出ます
2.かつお節を入れ、ひと煮立ちさせたら火を止めて、濾(こ)します。
▲出汁をとった後の昆布、かつお節は、二番出汁や佃煮などに活用してください
3.塩を一つまみ入れます。これで出汁は完成です。
4.フライパンを中火で熱して、もち麦、ごまを炒ります。ぱちぱちはじけてきたら火を止めて完成。これはごはんにのせるトッピングです。もち麦の食感とごまの香りが、お茶漬けに変化を与えてくれます。
▲炒ったもち麦の香ばしさが料理のいいアクセントに。きりん商店では、店内で提供するぜんざいやカレーのトッピングにも使っている
杉川さん:スーパーであられとかを買ってもいいんだけど、せっかくだったら地元霧島の食材で何か作れないかと試してみたところ、もち麦を炒ってみたらすごくおいしかったので、いろんな料理のトッピングに使っています。もち麦の代わりに、玄米でも作れますよ。
5.炒ったもち麦、ごまをごはんにのせて、その上から出汁を注ぎます。
6.茶こしで抹茶を振りかけたら完成です。
さっぱり、あっさりした味わいの中に、しっかりとしたうま味と香りが感じられるお茶漬けです。上品で控えめながら、抹茶の華やかさが全体をうまくまとめてくれています。
お好みでいろいろトッピングを用意してみてください。たくさん並べると「お茶漬けパーティー」みたいな雰囲気で楽しめそうです。
杉川さん:出汁をとるのが大変だったら、出汁パックや顆粒出汁を使っても大丈夫です。でもそんなに難しくないので、ぜひ一度チャレンジしてみてほしいですね。その上で自由にアレンジして楽しんでもらえたら。
▲アレンジはいろいろ。スーパーでいい魚やアラが手に入ったときなど、魚をプラスして出汁をとると、よりコクの深い茶漬けができます
──いろいろ教えてくださってありがとうございました。抹茶が予想以上に料理に合っていて驚きました。
杉川さん:抹茶は素晴らしい食材なので、もっと料理にも使ってほしいですね。お手頃なものから高級なものまでたくさんあるので、どれを選ぶかは「どう使いたいか」「どう楽しむか」によっても変わってきますが、最初はあまり構えず、手に入りやすいものを使えばいいと思います。
今回のレシピは、おいしさはもちろんのこと「楽しい」「取り入れやすい」を意識しています。こだわらずにやってみると意外な発見があるので、まずはいろいろ試してみてください。
▲営業終了後にお茶レシピを検討中の杉川さん。「こだわりが邪魔になるときがあるから、なるべくこだわらないように努力している」とのこと
おまけ:「永遠に完成しないお店」きりん商店の楽しみ方
夏は水出し緑茶、冬は抹茶を使った茶節やお茶漬けなど、季節に応じたお茶レシピの提案をしてくださった杉川さん。きりん商店でも季節に応じてお茶を中心としたさまざまなメニューが登場します。
今回はおまけとして、杉川さんにお店のことを聞いてみました。
──きりん商店は、四季折々のメニューが登場しますね。
杉川さん:地域の四季を取り入れることは、すごく心が豊かになることだと思います。自分にとっても、来てくれるお客さんにとっても。
▲定番の煎茶&抹茶ドリンクに加えて、春は桜、夏はスダチ、秋は栗など、季節を感じられるドリンクが評判
▲冬になると登場する火鉢。暖をとるだけでなく、店内で販売している抹茶あんぱんや餅、椎茸を炙って楽しむことができる
──そういう探求心や四季を楽しむ感性が、お茶の扱い方にも出ているのでしょうね。
杉川さん:今提供しているものが定着すれば、「定番」「当たり前」のものになっていくから、さらに何かできないかなとは常々考えています。
▲店先にある樹齢100年以上の金木犀で作るドリンクは、今やきりん商店の秋の定番に
──常に「店を変えていこう」「メニューを変えていこう」とする原動力はどこからくるのでしょうか?
杉川さん:自分が飽きっぽいからですね。バーを経営している知人から「商売は自分が飽きないようにしないとだめだよ。自分が飽きるとお客さんも飽きちゃう」と言われたことがあって、それがすごく心に響きました。
だから、“永遠に完成しないお店”としてやっています。「お茶の楽しみ方を伝える」「霧島のよかもん(よいもの)を扱う」 といった普遍的な柱の部分はあるんだけど、時代やその瞬間に応じた価値観や文化といったものを大いに取り入れながら、どんどん変化していきたい。変化しないと時代やニーズとずれが生じてしまいますから。
お客さんに「こんな商品やメニューがあるの?」と驚きとともに楽しんでもらうことが、より魅力的なお店作りにつながるのかなと思います。
▲2021年の秋は、店の庭に「地栗コロコロ」を設置。店内を見るのに飽きてしまった子どもたちが、外で遊べるようにと始めたそう。「自分自身も、子どもの頃に楽しい思い出があるお店は大人になっても覚えているから」と杉川さん
▲年末にはもちの振る舞いも。抹茶をふんだんに使った「抹茶もち」は、他では見られない贅沢さ
──最後に、今年の冬イチオシを教えてください。
杉川さん:ぜんざいですね。今年の夏は「抹茶ラテぜんざい」が好評でした。それを冬用にバージョンアップした「ぜんざいと霧島のお抹茶セット」がおいしく仕上がったのでぜひ食べに来てください。
「永遠に完成しないお店」として、おいしいメニューやお客さんが楽しめるものを追い求める探求心・好奇心こそが、きりん商店がお客さんを惹きつけるのかもしれません。
今回教えてもらった抹茶レシピは、どれも家庭でトライしやすいものだと思います。このレシピをきっかけに、奥深く楽しい抹茶の世界の扉を開いてみてください。そして、鹿児島に来るチャンスがあったらぜひ「きりん商店」へ!
お店情報
きりん商店
住所:鹿児島県霧島市牧園町宿窪田1424-2
電話:0995-76-1355
営業時間:10:00~17:00(木曜のみ13:00~17:00)
定休日:火曜、水曜(この他、日によってお休みの場合もあるので、Instagramの営業情報をご確認ください)
https://www.instagram.com/kirinsan_a_sugikawa/?hl=ja
書いた人:横田ちえ
鹿児島在住フリーライター。九州を中心に取材、WEBと紙の両方で企画から撮影、執筆まで行っています。鹿児島は灰が降るので車のワイパーが傷みやすいのが悩み。温泉が大好きです。
からの記事と詳細 ( 抹茶は「調味料」にしてもよし。うま味を活かしたアレンジレシピをお茶研究家に伝授してもらった - メシ通 )
https://ift.tt/abBWMfn
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